びくりと、体が揺れる。
空白の後に、急に意識が覚醒して、一瞬ここがどこなのか分からなくなってしまった。ぼんやりとした視界がそれに拍車をかける。眠ってしまっていたのかと思い至って慌てて体を起こすと、それに連動するように何かが床に落ちる音がした。それを目視して拾い上げると、見覚えのあるジャケットで、更に隣を見遣ると頬杖をついたまま舟をこいでいる賢木の姿があった。さすがにいくら眼鏡がないからといっても、この距離で賢木を見間違えるわけがない。
外した覚えもないのにデスクの上に置かれている眼鏡に首をかしげてそれをかけると、僕が最後に時計を確認したときから三十分以上の時間がたっていて、少し目を閉じたつもりがタイムスリップしてしまったと、だらしのない自分にため息をついた。待ち望んでいたはずの解析結果は、逆に早く確認してくれと僕を急かしている。中途半端に眠ってしまったせいで余計に強くなった眠気を持て余すみたいに欠伸をして結果を表示すると、読み込み中というウィンドウがでた。
それにしても、どうして賢木がここで眠っているのか。たしかに、今日も今日とて残業になりそうだということを愚痴っていた気もする。昼間に会ったときに賢木が着ていたジャケットが僕にかけられていて、隣に賢木がいるということはまあつまり僕の顔を覗きにきたつもりが居眠りをしていたから気を利かせてくれたのだろう。どうせなら起こしてくれればよかったのにと思いつつも、相変わらず優しいこいつに笑みが漏れる。
返そうにも持ち主が夢の世界では仕方ないと、もう一度ジャケットを羽織りなおして、大きく伸びをした。体がばきばきと不穏な音を立てたが、変な姿勢で眠っていたせいだろう。僕にあまり働きすぎるなというくせに、賢木だってこんなところで居眠りをしてしまうくらいには疲れているのだ。本当に休息が必要なのはどちらなのかわかったもんじゃない。
いつもは精悍な顔をしているが、気負っていない賢木の寝顔はどことなく子供じみたものを感じさせ、大学時代、僕の隣で陽気に笑っていたこいつを思い出した。異郷の地にいた頃から随分遠くまで来てしまった。それでもあいも変わらずこの男が僕の隣にいてくれることが嬉しくて、照れくさい。そしてそれがこれから先も当たり前のことであればいいのにと考えている自分に気づいて、どうしようもなく甘えてしまっているなあと苦笑する。
そういえば、夢にも賢木が出てきたような。いったい僕はどれだけこいつのことを考えているんだと我ながらおかしくなってしまった。