落ち着こう。冷静になろう。深呼吸だ。取り乱しすぎて危うく夜道で轢かれるところだった。こんなところで死にたくない。勢いで飛び出してきちまったけど、まあそういういうことだってあるかもしれないじゃないかっていうより、あれ俺なんで皆本の家から飛び出してきたんだっけ。あ、コンビニ。そうだ、コンビニに行こうと思ったんだよ。正直頭の中はそれどころじゃないけど。だってあれだぜ。まじで、あの皆本があれだよ? 本当にあの、だって、その。お、俺に、そのすきとかあいしてるとか言っちゃうわけじゃないですか。ありえる? ないよね? まじないよね? いやいや、嫌なわけじゃないんですよ。むちゃくちゃ嬉しいですよ。もちろん、俺たちが彼氏彼女もとい彼氏彼氏みたいな恋愛関係にあってそういった類の気持ちを向けてもらえてることは疑ってねぇし、普段あんまり色恋沙汰に積極的じゃねぇけど、あいつなりに俺のことをすきでいてくれるだろうなとは信じてる。でも、いろんな意味でノーマルなあいつをこういった特殊な道に引きずり込んだのは俺だ。そこに引け目を感じないほど能天気には出来てない。だから、正直言葉にして欲しいとは思いつつも、それは望みすぎだろうかって与えられるもので満足してたんだ。なのに、この飢餓状態から急に腹いっぱいに食い物を突っ込まれれば体が驚きすぎて拒絶反応が出たとしても誰も責められないだろう。それは近所のコンビニまでランニングもしたくなるわ。遠目に見える看板を目印にして、ようやくコンビニにたどり着くが、一体何を買えばいいのか見当もつかない。いらっしゃいませと気だるげな声で迎え入れられたって、いらっしゃいました!と陽気に返すことが出来そうなくらいには、相当いまの俺はキてる。かなりキテる。現実を見つめるために眠気覚ましのコーヒーを手にして、雑誌のコーナーを横目にレジへと向かう。そこで視界に飛び込んできたのは結婚情報雑誌だった。美しくドレスアップした女性が幸せの絶頂を体現したような笑みを浮かべるその表紙に手を伸ばして、パラパラとめくっていく。うん、もう次は結婚しかないよな。冷静に考えてそうだろ。これには皆本も同意してくれるはずだ。いましかない。いまが千載一遇のチャンスだ。勢いのままにそれを手にしてレジに並ぶ。いらっしゃいませ。かったるそうなバイトの声。ご機嫌にお願いしますと宣言して気づく。あ、やべぇ、財布忘れてきた。