ほんとデリカシーにかける人ねと、無様な敗北者を見るように紫水晶の瞳が笑った。
幼く柔らかな声色は鈴を転がすようだというのに、そこには優しさの欠片も含まれていない。それどころか、侮蔑だとか哀れみだとか、まあそういった類のものがこれでもかというくらいに詰め込まれていた。
「あの、勝手に透視するのやめていただけませんでしょうか」
俺の腰辺りに触れていた紫穂ちゃんの手から逃れるように壁側へと一歩下がると、追詰めるように彼女ももう一歩踏み出した。コツリと靴が床を蹴り、色白な指先がひたりともう一度、みぞおちの辺りを狙ってくる。
「センセイ疲れてるから、透視し放題ね。どうせならちょっと深くまでもぐって、恥ずかしい記憶の数々をのぞいちゃおうかしら」
両手を打ち鳴らして満面の笑みを浮かべた少女は、そのかわいらしい仮面の裏側で、悪魔でも裸足で逃げ出すような人間を精神的に追詰めるげに恐ろしき策略を百パターンくらい考えていることだろう。同じサイコメトラーといえども、幼い頃の俺はもう少しかわいらしかったというのに、最近の子供って本当に怖い。
「喧嘩売ってるなら、遠慮なく買わせてもらうわよ」
「勝手に覗き込んどいてご機嫌斜めになるなよ。おまえらが居ない間、皆本の面倒はしっかり見てやるからその怒りをおさめてくれ」
紫穂ちゃんの肩を抱いて安心させるように視線をあわせる。だが、勢いよく足を踏みつけられて鼻で笑われてしまった。そこ、さっき皆本にも攻撃されたところなんだけど、そういうふうに能力を悪用するのやめてくれないか。痛みに喘いで手を握り締めると、ああごめんなさい足が滑っちゃったと棒読みのセリフが返ってくる。
「性格悪いぞ」
呟きに反応して滑っているとは思えない的確さで、爪先が俺の足の甲にめり込んだ。
「センセイには負けるわ。あと、面倒を見てもらうの間違いじゃないかしら、邪魔者がいなくなって羽を伸ばせるなんて失礼しちゃう」
「いいだろ、普段は独占してるんだし」
占有権を主張するほど大人気ない真似はしないが、俺だって皆本と一緒にいたいのだ。そのあたりをがんばって精一杯譲歩してるこの優しさを理解してもらいたい。しかし、皆本の愛を惜しげもなく与えられた少女達は、あいつの一欠けらさえ取りこぼしたくないという。あれは麻薬のようだ。一度知ってしまうと、もっともっとと際限なく欲しくなる。
「それは、センセイだって同じでしょ。たぶん同罪よ」
「なにがだよ」
「さあ、年季が入ってもっと始末に終えないってことじゃない?」
まあ今日はがんばったみたいだから、少しだけレンタルさせてあげるわと微笑んだ少女に、主体はそちらにあるのかと、やはり一欠けでもいいから俺の手の中に閉じ込められる何かが欲しいと、切に願ってしまった。
たしかに、どうしようもないのかもしれない。