しぬ、頭が痛い。もうお酒なんて飲まない。いま拳銃がこの手にあったのなら、躊躇いなくこめかみか眉間を打ち抜けるだろう。グロッキーな状態で拳銃をかたどった右手をこめかみに突きつけたって、この苦痛がかわるわけでもない。ただ、胸のあたりでわだかまっていた吐き気がせりあがってきて、食道を圧迫した。もう既に吐くものは残っていない。吐いたって何も出てこなくてひっひっとえずくだけと分かっているのに、体から異物を排出しようとするかのように嘔吐感だけがのぼってきて舌の付け根が痙攣する。その息苦しさを誤魔化すように寝返りを打つ。その衝撃でさらに吐き気が増した。何で泣いているのかもわからないのに、涙が目じりを流れ頬を濡らす。名前をよばれ、ひんやりとしたものが額に押し付けられた。それがなにかわからず目線だけをあげると、浅黒い指先がペットボトルを手にしているのが分かった。
「水、飲めるか?」
「むり、です」
賢木さんは僕なんかよりも苦しそうに眉根を寄せると、そうかと小さく呟いて頭をなでてくれる。水分をとってアルコールを排出するしかないといわれて飲んだ水は、もうすべてトイレで吐き出してしまった。そのときの感覚を思い出しただけで吐きそうになる。
「つらいと思うけど、がまんしろ。明日になれば楽になるから」
脳裏に響く賢木さんの声は優しくて、さっきとは別の意味で泣き出したくなった。助けを求めるように、彼の名前をよぶとすぐに応えるように手を握られる。ありがとうございますと、ただただ念じる。あなたがいてよかったですと。すると、眼鏡のないせいでうすぼんやりとした視界の向こうで賢木さんが少しだけ困ったような泣き笑いの表情をみせたような、気がした。泣きそうだったのは僕だったのかもしれないけれど。
「苦しくないか」
(くるしいけど、あなたがいるから大丈夫です)
「なにかして欲しいことは」
(手を、握っていてください。冷たくて気持ちがいい)
「みなもと」
(はい)
「みなもと、ずっと隣にいるから」
頬に触れた指先が、流れるままになっていた涙を拭ってくれる。無意識に漏れた呻きを殺すように賢木さんの手が強く僕の手のひらを握った。
(ありがとうございます)
「みなもと」
伝わる体温へ僕の気持ちを乗せるようにただただ賢木さんのことだけを考える。痛みと吐き気とそしてどこかうつらうつらとしたなかで、それはこっちの台詞だと彼の掠れた声が聞こえた。気がした。