横一列に仲良くならべられた三人娘の前に、怒り心頭とばかりに腕組みをして仁王立ちをする皆本。三人は三者三様に不満の表情を浮かべながら、フローリングの木目を視線で追っている。濡れたままの髪を拭ってバスタオルを首にかけると、三人に雷をおとしていた皆本が心配そうにこちらを振り返った。
「もう大丈夫か?」
「ああ、服まで貸してもらって悪いな。今度洗濯してかえすから」
「いや、僕の方こそごめん。洗濯とかは気にしなくていいから。ほら、きみたちもちゃんと賢木に謝るんだ」
三人を見回した皆本は、俺に向けていたときよりも幾分か低く芯のある声を落とした。それに反応するようにびくりとまだ幼い肩が揺れる。さ迷う視線は、皆本の足元を通り過ぎ俺を映して揺れる。逡巡のあとに、不満そうに頬を膨らませた。それを敏感に感じ取った皆本が、重々しいため息を吐き出して、眼鏡のブリッジを押し上げる。
「悪いことをしたら、謝るんだ」
艶やかなフローリングの床に落とされた硬質な言葉。三人とも唇を噛んで、膝の上でぎゅっと手を握り締めている。
「ずるい」
薫ちゃんが漏らした言葉に、皆本の動きが止まる。怪訝な表情を浮かべた皆本をかえりみることなく、紅色の瞳は俺を見上げた。
「センセイばっかり皆本に優しくしてもらってずるい!」
思わぬ方向からの追撃に言葉を失い、目を丸くする。だが、そこへ乗っかるように葵ちゃんも不満げな声をあげた。
「せやて、たしかにちょっとやりすぎたかとは思うけど、賢木センセが皆本はんに不埒なことしようとしてたんやもんしゃあないやん!」
「あのな! 不埒とかいうな完全に被害妄想だろ! おまえらだって大切な友達を風呂に沈められてみろ、怒りたくもなるぞ」
反論の言葉を黙殺するように言いきる皆本に、三人は怯む。大切な友達なんて二十を超えた男がよく言葉に出来るよなとちょっと感動しつつ結構嬉しく思っていると、ぼそりと紫穂ちゃんの呟きが落ちた。
「センセイが嬉しそうなのがむかつくわ」
「すぐにむかつくとか言わない!」
「反吐が出るわ」
「言い換えの問題じゃない! あと、女の子がそんな言葉遣いしない!」
肩を怒らせた皆本と飄々とした紫穂ちゃんのやり取りは、はたから見ていると逆に滑稽で笑えてくる。そしたら、なぜか俺まで皆本に睨みつけられて威嚇された、しかも舌打ちまでセットで。大切な友達じゃなかったのかよ。