Good morning my friend.


息苦しいとか、暑いとか、埃っぽいとか、いろいろなことを思いついたけど、それよりも何よりも、隣にいるゼロスの体温に安心した。

確かベッドに入った時には、真ん中でラインを引いてお互いの領域を決めたはずなのに、いまはゼロスの腕の中に抱き込まれている。

もしかして、夜は寒かったのだろうか?

ゼロスの取り巻きの女の人たちなら泣いて喜ぶ状況なのかもしれないが、男の俺としてはなんともいえない微妙な感じだ。

でも、こうやって俺の隣でしかも俺を抱きしめながら寝るなんて、ゼロスが気を許してくれた証なんじゃないかと嬉しくも思えた。

「ゼロスー、起きてるかー?」

小さく呼びかけると、いつものしまりのない笑顔とは違う、穏やかな寝顔の眉が顰められてうなり声と一緒によりいっそう俺を抱きしめる腕に力が入る。

これってまったく逆効果じゃないか。諦めて、コテンとゼロスの胸に頭をぶつけると、ゆっくりと胸が上下するのがわかった。

いつもはおどけてばかりのゼロスだけど、黙っていると格好いいと思う。

いや、格好いいというより綺麗のほうが的を射ているかもしれない。

頬のラインはシャープだし、睫毛は真っ赤で長い。真っ白な肌は男のものとは思えないくらいきめ細かくって、本当に血が通っているのかと心配になった。

自分でもてると豪語しているけど、これだったらあんなに多くの女の人に人気があるのもうなずける気がする。

でも、黙っているゼロスは綺麗だけど人形みたいで少し物足りない。普段くらい崩れていたほうが人間らしくていいよな。

まあ、無表情とはまた違う、こういう穏やかな寝顔も悪くないけど。

人形とは少し異なる、穏やかな寝顔のゼロスからは、自分と同じ香りがした。

寝る前に汗くささを誤魔化すためと、無理矢理振りかけられた柑橘系の香水の香りは、俺の体からも、ゼロスの体からもいまだ色褪せることなく香ってきて、

いつもの自分とは違う大人っぽさみたいなものを感じて少し恥ずかしくなる。香水なんて普段つけないから変な気分だ。

あんまり好きではなかったけど、ゼロスがつけている香りは嫌いじゃない。

あのメルトキオのゼロスの取り巻きたちが身に纏う、ケーキやクッキーの甘い香りとは違う吐き気のしそうな人工的な甘い香り。

ゼロスはあの中でよく笑っていられるなあと、感心してしまう。そんな不快なものとは違う、爽やかな香りは逆に好きだ。

クンクンとノイシュがするように鼻を鳴らすと、いつもより強めの柑橘系の香りに、なんだか嬉しくなった。

こうやってはじめて一緒に寝たりしたけど、やっぱりゼロスのことが好きだなあって実感する。いうなれば、兄貴ができたみたいで嬉しいって感じだろうか。

イセリアではいつも自分が年長で、年下の友達が多かったから、俺と年が近い(といっても五歳差だけど)友達っていうのは初めてで新鮮だ。

だから、兄貴がいたらこんな感じなのかなとか思ってしまう。

まあ、ゼロス本人には言ったことないけど。もしもこんなこと言ったら、絶対に嫌な顔されそうだ。

(でもいつか、いつかおまえって兄貴みたいだって言えたらいいな、なんて思ったりするのは、やっぱり俺がゼロスのことを大好きだからなんだろうな)

あともう少しだけ、まだみんなが起きだすには時間があるから、それまではこの年上の(兄貴のような)友達の腕の中で眠りにつこうと瞼を閉じた。


(いままでで一番近くにある体温に、喜びと心地よさを感じた。普段なら振り払ってしまうその温もりに、手を伸ばして身を寄せる)









報われてるのに、報われていない、愛していると好きの、永遠に交わらない追いかけっこ。

始まりの始まる前の、終わりの始まり。