おっ、どうした。俺に用事なんて珍しいな。暴れすぎて怪我でもしたか。違うって、じゃあなんだ。すごい勢いで保護者が追いかけてきてるぞ。律儀なあいつが、廊下を走らないでくださいっていう張り紙を無視するとは何事だ。
 気にするなって言われても、ただ事じゃない感じになってるけど、えっ、皆本のファーストキス? そんなん知りたいの? あー、だからあいつすげぇ勢いで止めに入ろうとしてるのか。
 いやいや、出し惜しみとかじゃねぇし、まぁそれなりのことは知ってるぜ。でもな、薫ちゃん。後ろを振り返るんだ。ただいま追いついたきみの運用主任殿が、殺戮者のような目をして俺をにらんでんだよ。あのがらんどうな瞳は、躊躇いなく人を殺せそうな殺気に満ちているぞ。
 実はさっき廊下でかわいい女の子とすれ違ってメールアドレスをゲットして、そして明日は明日で素敵なお姉さまとのデートが入っているわけだ。この意味分かるよな。俺はまだ死にたくない。そんな目をしたって駄目だって。あいつはやるときにはやる男なんだ。
 何度あいつの鉄拳によって煮え湯を飲まされてきたことか。コメリカにいたとき、シュージのことはコーイチに聞けとまで言われるほど自由の利かない完全管理下に置かれていたんだ。あのときの苦しみを思い出すと今でも胸が苦しく、嘘です。冗談です。皆本さんそんな冷たい目でにらみつけないでください。
 と、とりあえず一つだけ言えることはだな、あれは飲み会の場での不幸ないってぇ! 俺まだ何もいってねぇだろ! 突然殴りかかるなよ! 薫ちゃんがどうしてもって言うから人生の先輩としてだな。
 だよなぁ。やっぱり薫ちゃんはわかってるよ。言ってやれ言ってやれ! ファーストキスの思い出くらいでケチケチすんなって。うわぁ、皆本くんたら赤くなってる! じゅんじょーな恥ずかしがり屋さん! ってぇ、何で俺ばっかり殴るんだよひいきだろ! 俺はそういうので喜ぶ性癖は持ち合わせていません。皆本のような上級者じゃねぇんだよ。人様に対して恥ずかしいことだけはするなと言われ育てられてきたんだ。ちょ、武器はやめろそれしまえ、 完全に殺しにかかってる! 飲み会の王様ゲームで俺としたのがはじめてってだけじゃん。おまえの自己申告によると。ちなみにセカンドも、いやなんでもないです。もう王様ゲームの話はやめます。
 そのときの王様は誰だったかって? そりゃ俺だったけど。かわいい女の子を狙うはずがだな、いや皆本君を責めているわけじゃない。なかなか初々しくて、あれはあれでたのしかっいやなんでもないです。本当にもう疚しいこととか考えてないです。だから、俺に向けられつつある銃口を天井か床に向けてください。というか、ここでそんなもんだすな!
 か、薫ちゃん? どうしたんだよ、肩ふるえてる。皆本の凶暴な一面を見ちゃって、おびえてるのか。こいつ本当はこういう男なんだよ。元気出せ。ほら、皆本もフォローしとけよ、明日から皆本不潔!とか言われちまうぞ。そんなことになったら、おまえ号泣だろ。
 あれ? 薫ちゃん、何で拳振り上げてんだよ。え、勘違いだって。ちゃんとあのときはリミッター付けてたし。なあ、皆本そうだよな? 
 お、覚えてないとか、死ぬ気で思い出せよ! 俺のこと裏切るつもりか、その顔は絶対覚えてるって! 皆本の記憶力がいまこそ真価を発揮するときだろ! おい、保護者なんとかしろよ。サイコメトラーだからってそんなことで力悪用するわけないだろ。
 いや、皆本までなんでそんな疑いの目で俺を見るの? 本当にあれはただの偶然で。薫ちゃん、ほら深呼吸して、落ち着けるはずだから。
 ちょっ、やめろって俺死んじゃうから! まじやめて!




13・03・27
13・05・13