賢木は自分と皆本の距離感というかパーソナル・スペースのとり方がおかしいということを理解していた。だが、皆本はそれに対してなんの抗議もしてこない。だから、コメリカ時代からの名残でスキンシップ過多のままいままできてしまった。
最初は本当に単純なことだった。触れても嫌がらない、自らのサイコメトリーの能力に対して嫌悪も偏見も抱かない存在が嬉しかったから、傍にいることが許されることがただただ嬉しかったから、そんな些細な理由だったのだとおもう。それがいつの間にか心地よく、そしてこの場所こそが自分のあるべき、そしてありたい場所なのだろうと感じるようになっていた。
「おい、皆本。こんどは俺に付き合ってもらうからな」
「もしかしてバイク雑誌じゃ」
「そうだよ、悪いか」
「いや悪くはないけど」
言いよどむ皆本は、可か不可かといえば限りなく後者に近い反応だ。
だが、賢木は逃げることは許さぬとばかりに、自分が皆本に無理矢理渡した本を抱え込んでいるその腕を取ってぐいぐいと引っ張っていく。そして、皆本がその腕を振り払わないことに、これ以上ないくらいの安堵を覚えた。もう分かりきっていることだけれども、何度繰り返しても当たり前のように自らを受け入れてもらえることの心地よさを手放すことなんて出来ないのだろうなと、お気に入りの玩具を手放したくないと駄々をこねる幼子のような自分に苦笑を漏らした。
「いいだろ、今日くらいは付き合えよ。最近おまえが相手してくれないから結構寂しいんだぜ」
茶化すように肩をすくめてウィンクをした賢木に、皆本は半眼になってその頬をぐいっと摘み上げる。遠慮なしの一撃に悲鳴をあげそうになったが、しんとした店内で目立つわけにもいかず非難の声を上げる代わりに黒茶の瞳で皆本をにらみつけた。
「いつもたくさんの綺麗なお姉さまたちに遊んでもらってるんだろ」
レンズの向こうの鳶色の瞳には呆れなんだか軽蔑なんだかよくわからないものが浮かんでいるような気がしたけれども、言葉尻だけをとらえれば嫉妬されているようにも思えて、皆本も少しは自分と同じような気持ちを味わってくれているのだろうかと無意識に頬が緩むのを感じた。するとそれを嗜めるように更に皆本の指先に力がこめられて今度こそギブアップの悲鳴をあげてしまった。
こうやってスキンシップが増えるのもたぶん寂しいからで、自分の大切なものが横取りされてしまったように感じるからだろう。
大人気ないということは分かっていたけれども、おさなっぽく振舞ってしまうくらいには皆本との関係はとても大切なものだったのだ。
チルドレンたちには自分は目のうえのたんこぶみたいなものだろうということは分かっていたけれども、今日くらいはこいつのことを独占させてくれよと、ぐっと皆本の体を引き寄せた。







13・02・21
13・02・27