ぐわんと頭が揺れる。息が荒く目の奥がずきずきする。少しでも楽になりたくて酸素を求めても、喉の奥からヘタな木管みたいな音がもれ苦しさが増しただけだ。燃えるような熱をはらんだ呼気を吐き出すと、それに影響されるように咳で胸が上下して痛みを感じた。ぎゅっと瞼を閉じて枕に顔を埋める。いっそはやく眠ってしまいたいと思うのに、眠気が訪れるどころか息苦しさにまどろみは遠のいていくばかり。このまま皮膚も焼け爛れてしまうんじゃないだろうかとバカみたいなことを考えながら寝返りを打つと、ひんやりとしたものが額に触れ、やさしい色をした気持ちが体の中に流れ込んでくる。風邪で力のコントロールが不完全なせいか、サイコメトリーが最小限に抑えられてしまっている。紫穂と名前を呼ばれた気がした。うめき声にしかならない応えをすると、大丈夫かと柔らかい声音が耳元をなでる。私を安心させるようにやさしく語り掛けてくる口調。一瞬パパなのかと思ったけれども、記憶の中にある声音よりも高く聞きなれたそれに、浮き沈みする思考の外でみなもとさんねと、当たり前すぎる結論に至った。なんとか目を開けてぼやけている皆本さんに視線をあわせると、つらくないかと眉根を寄せ私を覗き込んでいることが分かった。過度の不安をあおらないように、笑顔さえ浮かべようとしてくれているのに、そこにはゆらぐような動揺が交じり合っていて、ああ心配を掛けてしまっているのねと申し訳なさを感じる。だが、それだけじゃない。いまは彼を独占できているのだと後ろ暗い喜びをみいだしてしまった。
「もうすぐ賢木がくるから大丈夫だ」
ひやりとした指先が、ぎゅっと私の手を握り締めてくれた。あのセンセイの名前を呼んだときに、波打つようだった感情の波紋が安堵とともに落ち着いたのが伝わってきた。それが気に入らなくて、私だけに縛り付けるみたいにその手のひらを握り返す。なのに、鈍感な皆本さんは苦しいけど賢木がくるまでの辛抱だからなと、まだあの人への絶大な信頼を触れている場所から流し込んでくれて、本当にたまらない。この人もあの人も、かわいい女の子がたくさんいるなかで、どうしようもないくらいお互いのことを思いあってるくせに、自分の気持ちには鈍いばかりで嫌になっちゃうわ。どうせなら、ずっとこのまま気づかないでいてくれればいいのにと、熱にうなされた頭ですがるように願わずにはいられなかった。







13・02・05
13・02・27