日が暮れて、あたりが闇へと落ちていくのと同じように、誰にも負けない力強さを持つ彼の輝きも弱まっていく。
誰にでもおこりえるその状況に彼が陥るということが、少しだけ意外で、それでいて嬉しくも思える。
彼の痛みが去るまで耐えればいいんだろうか。だって、彼はすごく強いから、たまにこんなふうになってしまうんだろう。
頼りすぎているんだろうかとも思う。でも、彼の黒に見入られてしまったのだから仕方ないのかもしれない。
もしかしたら母のような存在なのだろうかと冗談めかして考えてみたら、
冗談では終わらないような気がして自分の主体性のなさに呆然としてしまった。
自分から見ればまだ青臭い幼さを宿したその背中に、酷く依存している。自分にとってはもう届かない理想を伴った青臭さだから、
こんなにも惹かれてしまうんだろう。もう、手が届かないものだと分かっているから。
俺は、ユーリをほしいと思う。それは性的欲求にも保護欲にも所有欲にも似ている。
ただ、みんなを導いているユーリが心を向けてくれるのが俺だけであればいいのにと浅ましいことを考えてしまう。
「ねえ、」
名前を呼ぼうと思って、ためらってしまった。
ただ音にすればいいだけなのに、そうすることでこの時間が無かったものになってしまいそうだったから。
十センチもある身長差が、いまはゼロになっている。身をよじるようにして自分の胸元にある黒をのぞきこんだ。
ベッドヘッドに背中を預けてぐたっとのしかかってくる体温を受け止める。泣いてくれれば分かりやすいのに、
涙も流さないで自分の中にある痛みを自分の中だけに押し込めようとしているそこに、俺の方が泣 きたくなった。
好きだといってしまおうか、笑い話にしかならないけれど、もしもユーリが笑ってくれるのならばそれはそれでいい。
「あんたが」
聞きなれた声が鼓膜を揺らした。この音が俺の名前を呼んでくれるのならば、生きている意味があるんじゃないかと思えてしまう。
ごめんねと、誰にともなく謝りたくなった。
変わる前の自分と、変わってしまった自分と、俺の前からいなくなってしまった人たちと、いろんなものに。
こんな歪んでしまった好意さえ許され与えられるというのならば、二度目の人生は上々だ。
「あんたがそんなんだから」
「ん?」
できるだけ優しい声でささやいてみせる。
できるかぎりの精一杯の優しさをのせて、彼の苦しみだとか葛藤だとかを受け入れて見せようじゃないか。
どれだけでも献身的になってみせるから、どうせなら落ちてきてくれ、この場所まで。
ここは一人では寂しすぎるから。与えられたものは甘すぎた。次が欲しくなるくらいに。
「だからオレはこんなふうになる」
「うん」
「こんなんじゃ駄目なのに」
「うん」
どれだけだってこの優しさをあげるから。どろどろに溶けてなくなってしまうような。
だから、俺だけに本当のおまえを見せてくれ。愛してくれなくてもいいから、愛に似た断片を。
「ユーリ」
名前に反応するように、シーツの上に投げ出されていた手のひらが俺の背中を緩くなぜた。
「いいから。それでいいから」
答えはない。静寂だけが饒舌に、ユーリの痛みを際立たせた。与えられないというのなら、せめてこの痛みだけは共有させてくれ。
10・2・27