昼間の宿舎はしんとしていて、普段の猥雑が嘘みたいだ。
オレの同室のやつも同じ階に住んでいるやつも、いまごろは訓練でしごかれていることだろう。
昨日までのオレだってそうだったんだ。いま宿舎にいるのは、病気かサボリのやつくらいだ。
荷物の整理もほとんど終わっているため、部屋半分だけががらんとしていて変な感じだ。
あと二三日もしないうちにオレはこの宿舎から退去することになる。もちろん、騎士団からもだ。
自分自身も同期が去っていくところを何度か目にしたことがあるが、そのときと同じようにオレに対して考え直すようにと説得するよ うな言葉もでた。
同期であり幼なじみでもあるフレンは、少し悲しそうな顔をしてポツリとそれで本当にいいのかい、という言葉を漏らしただけだったが、
冗談 みたいな言い訳さえ許さないような静かな雰囲気がなによりも饒舌にフレンの気持ちを代弁している気がした。
本当にこれでいいのか。
そんなことオレにもわからない。むしろ分かるやつがいるというなら教えてほしいくらいだ。
自ら志願して入団したはずなのに、あの入団したときの興奮や胸の高鳴りは、
突きつけられた現実と変えようのない状況の中で緩やかに色を失っていった。
この中にいては何も変えられないと思う自分、じゃあやめてどうするのかと問う自分。
考えでもって解答のないことばりが、頭の中に浮かんでは消えていった。 自分でも直情的すぎると呆れてしまう部分もある。
たけど、何もしないでいるより、せめて目の前にあるものを一時しのぎでもいいから変えたいと思ったから、
安直かもしれないがこの選択しか思い浮かばなかったのだ。
「短い付き合いだったな」
騎士団とも、同期とも、この部屋とも。
ここに入れば、上り詰めれば、何かが変わると信じていた。
でも、信じていたものなんていうのは、何も知らない子どもがいだいていた幻想みたいなものでしかなかった。
この幻想の皮をかぶった掃き溜めみたいな場所でも、耐え続けて上り詰めれば、そこにチャンスはあるのかもしれないが、
オレはフレンみたいに耐え続けること はできそうになかった。
窓からもれ聞こえてくる訓練の掛け声に、少しだけ後ろ髪ひかれるような思いがした。
それを振り切って人影のない廊下へと出た。あの声のする方に、自分の居場所はもうない。
自分のやり方でしか守れないものを守るために、オレは騎士団を去るのだ。
09・3・23
09・6・6