りあえず注意書きです。
まず、騎士団でユーリが尊敬できた人がシュヴァーンで、可愛がってもらっていました。もちろんユーリはシュヴァーン隊所属です。
つまみ食い見つかったりして怒られたり、稽古をつけてもらったりしてました。たぶん。

レイヴンとしてユーリと再会したシュヴァーンは、当然のように正体がばれてしまいます。でも、二人の秘密でした。
本人は気づいてないけど、シュヴァーンに好意を持っていたユーリはそれを喜んで受け入れてしまいます。
好意を利用されたってことですかね。
でも、隊長もユーリが大好きで、罪悪感をいだいてました。アレクセイの命令には逆らえない傀儡だったので、あれですけど。
あと、妄想なので唐突に始まり唐突に終わります。なので話の繋がりとかがかわいそうです、勢いだけで構成されています。

すごく無理がある設定な上に、ユーリが軽くでれでれなので、それでも大丈夫という方は読んでみてください。
 
 
「どんな顔なんだろうなぁ。よっぽどひどい顔のやつなのね」

リタの動きが驚きで止まる。頭が真っ白になった。たぶん、誰もがオレと同じように呆然としているだろう。

「シュヴァーン隊長」

自然と転がり落ちたのは、もうあえる望みを振り捨てた人の名前だった。それに反応して、彼が一瞬微笑んだように見えた。

でもそれはすぐに消え、いかにもレイヴンらしい軽薄な笑みを浮かべて、オレたちに向かって手を振った。


「レイヴン様参上!なになに、感動の再会に心がいっぱい胸がどきどき?」

だれもが驚きで呆然としている中に、レイヴンのふざけたような台詞だけが上滑りしていった。

時が止まったようなオレたちとは別に、デコやボコ、ルブランを下がらせて、バクティオン神殿の地下で見せた姿が嘘のように飄々と歩いてくる。

なんとか状況を整理し、驚きから回復したらしいリタはおっさんなにやってんのよ!と叫び声をあげて、感情を露にした。

その隣を矢が通り抜けていく、続いて低い男の呻き声。普段なら気配で気づきそうな位置にいた兵士が、武器を取り落として倒れ込んでいく。

その胸にはシュヴァーン隊長の弓から放たれた矢が、突き刺さっていた。


「ま、こういうワケ。そういうことで、よろしく頼むわ」

「何言ってんのよ!信用できるわけ、ないでしょ!」

両手を握り締めて叫ぶリタの肩は震えていて、語調も弱くなっていく。怒りというよりも、今にも泣き出してしまうんじゃないかと思えた。

「シュヴァーン隊長…」

すぐ隣にいたリタと目の前の隊長が、オレの方を向くのが分かった。リタははっとしたような顔をして、握っていた拳を下ろし、小さくオレの名前を呼んだ。

その瞳はいつも以上に見開かれ、光を受けてキラキラと輝いている。もしかしたら涙のせいなのかもしれない。


本当は、レイヴンと呼べといわれていた。その正体に気づいてしまったときから、共通の秘密だった。そのことに、小さな喜びさえ感じていた。

だが、隊長の本当の目的を見抜けずに、むしろオレという存在を逆手に取られたことで、エステルをさらわれ仲間たちにも迷惑を掛けてしまったのだ。

なのに、バクティオン神殿の地下での最後やオレに向けられた優しい笑顔、騎士団の中で見てきたあの人の背中、全てを突き放すには知りすぎていて、

捨て去ることなんて出来なかった。


「おまえさんは、まだそんなふうに呼んでくれるのかい」

悲しいような、優しいような声色が耳を撫でる。隊長の顔には微笑が浮かんでいるのに、その翡翠の目は静かに澄んでいて、感情を読み取ることは出来ない。

遠くで砲弾の音が響き渡っているのが嘘のように静まり返っている。まるで、ここだけ隔絶された世界みたいだ。

沈黙を破ったのは、オレの頬を遠慮がちに撫でた隊長だった。


「シュヴァーン・オルトレインだったものだよ、ユーリ。もうおまえが慕ってくれたものの残骸でしかない」

頬に触れた手を握る前に、するりと逃げ去ってしまう。

ずっとあいたかった。だから、その正体を知ったとき、秘密を共有したとき、喜びを隠せなかった。

本当は、もっとこの人の近くで働いていたかった、でも騎士団の腐りきった状況や、日々苦しくなる下町の現状を見捨ることはできずに離れていく道を選んだ。


あの髪も、翡翠の目も、分かりにくい優しさも、子供みたいにふざけて笑うとこも、ずっとオレを放してくれなくて、でもあえなくて。

死だったものは生にかわり、また目の前に、手を伸ばせば届くところに帰ってきてくれた。名を呼んでくれた。

嬉しいのか、悲しいのか、笑いたいのか、泣きたいのか、もうよく分からなくて、名前を呼ぶことしか出来ない。


「俺はもう…。いや、そんな人物は死んだ。シュヴァーン・オルトレインなんてものは」

皮肉ったように笑うこのひとに、オレの何かが弾けたような気がした。また死んだというのか、こんなにも嘆いたというのに。

生きながらにして死を言葉にするのかと、喜びや悲しみだったものが冷えていくのが分かった。


「そんな口上どうだっていい。シュヴァーンだって、レイヴンだって、そんなのもどうだっていい。オレはあんたという人がいてくれたなら、それだけでいいんだ!」

リタとカロルがオレの名前を呼ぶ。そこで、こんなに声を荒げたのは久しぶりかもしれないと思った。

でも、そんなことどうだっていい。シュヴァーン、いやレイヴンの目が覚めないというなら、叩き起こして嫌だといっても引きずりあげるしかないんだ。

もしかしたらオレのエゴなのかもしれない、だとしてももう逃がしてやるつもりなんて毛頭ない。


「凛々の明星として、けじめを付けてもらうぜ」

静かにオレを見つめていたレイヴンが、腰に差していた短刀を渡してきた。

「さあ、好きにしろ。俺はおまえを利用し裏切った。けじめをつけろというのなら、何の因果か生き残ってしまったこの命、おまえの好きなようにしてくれ」

「アレクセイに刃向かったいま、いずれ魔導器をとめられてしまって命はない。だからここで死んでも同じ、そういうこと」

いままでポーカフェイスを貫いていたジュディが、いつもと変わらぬ調子で言い放った。それを受けてレイヴンが肩を竦める。

「俺はもう死んだ身なんよ」

オレが望んでいるのはこんな形での結末なんかではなくて、生きていてくれということだったのに。

渡された短刀は軽いはずなのに、その重みに耐え切れなくなり投げ捨てた。

カランという音がして、レイヴンが音の先を追った瞬間に、がら空きだった顎めがけて拳を繰り出す。

自分の人生の中で三本の指に入るくらい、綺麗に決まったといえるストレートパンチだ。

衝撃が拳を伝ったあと、レイヴンが呻き声を上げて倒れ込みそうになる。

騎士団にいた頃に稽古を付けてもらったときでも、こんなにこの人にダメージを与えたことはない気がする。


「あんたの命、凛々の明星がもらった。生きるも死ぬもオレたち次第」

いまだにダメージから回復できていないレイヴンは、オレが殴った顎を押さえながら、小さく笑った。

それは、珍しくシュヴァーン隊長が褒めてくれたときに浮かべていた笑顔とそっくりだった。


「こんなところでどうだ、カロル先生」

いままで雰囲気に呑まれたように黙り込んでいたカロルは、オレの呼びかけにビクリと肩を揺らし、いたずらっ子みたいな笑顔を浮かべて大きく頷いた。

「えへへ、さすがユーリ。ばっちりだよ」

まだ痛がっているレイヴンを尻目に、足を踏み出すと、カロルが大きなカバンを揺らしながら走ってくる。

レイヴンの前で止まると、小さな体で飛び上がり、頭を殴りつけた。オレに負けず劣らずのいいパンチだ。

レイヴンは大げさなくらい痛がりながら、オレに視線を向けた。それに答えるように手を振ると、諦めたように首を振って、何かを呟いた。

それはオレのもとに届くことなく、砲撃の中へと消えていった。その間にもジュディやリタが同じように、レイヴンへと向かっていく。

これが凛々の明星なりのけじめであり、オレがあんたにしてやれることだ。


何を言いたかったのかなんてあとでゆっくり聞いてやる。さあ、生きている証拠の痛みってやつをじっくり味わってくれよ。












08・10・2