人が死ぬっていうのはどんなことなのかよくわからなかった。

それは形式的な意味上のことではなくて、もっと感覚的な意味でのことだ。

それをいまのいま実感している。いや、実感なんて甘いものではなくて、体感してて、

でも身近に起こりすぎてよくわからないのかもしれない。思考は真っ白なのにあたりは真っ赤。

何か言わなきゃいけないのに、涙しか出てこない。

「どうしてだよ…」

こんなことじゃなくてもっと気の聞いたことを、いやこの綺麗な体を貫いたのは俺で、

殺人者に問い詰められる被害者なんて聞いたことがない。

みんな呆然として言葉も出ないようだ。俺だってそうだ。

リフィル先生は小さく首を振ってそのまま黙り込み、回復魔法をかけることはなかった。

レイズデットでも無理なのだろうか、なのだとしたら、いつも戦線で威力を発揮する魔術はなんて無力なんだろうか。

目の前の人一人救うことが出来ない。

「ろいどくん、そんなになかないでよ」

「だれの、せいだよ」

「もしかしなくても、おれさまのせいなのかな」

ああ、そうさ、そうだよ。

どんどんと体温を失っていく体が愛しくてしょうがないのに、いま目の前から消えようとしているのだから。

肉体的には消滅しないのに、精神的には未来永劫覆すことの出来ない終わりを迎えるんだ。

「ぜろす、ごめん。ごめんな」

いつかそうされたように、血で真っ赤になった手が伸びてきて、とどまることを知らない涙をぬぐってくれた。

だけど、涙の代わりにべっとりとした生暖かい血潮が頬を染める。

「あやまらないでよ、なかないでよ、さいごくらいわらってよ」

「さいごなんていうなよ」

「じつはね、おれさま、ろいどくんのわらったかおがすきなんだ」

幼い子どもがとっときの秘密を明かすかのような言葉に、笑うことを忘れてしまったような筋肉を無理やりに歪ませて、いびつな笑顔をつくった。

笑わなきゃいけないのに、逆に涙が溢れてきて、鼻の奥がツンとする。

彼が大好きだと言ってくれた笑顔は、無残にも泣き笑いになってしまった。それを見たゼロスのほうが呆れたように笑う。


「ねえろいどくん、
百年待ってて


なんて残酷でやさしい言葉。

それは暗闇の中に一筋射した光明のようにも思えて、深く考えることもなく縋ってしまいそうになる。

でも俺知ってるよ、それ昨日ゼロスが読んでた本のタイトルだろ。

返事をする前に俺の涙をぬぐっていた手ははたりと落ちて、俺は力なく頷いた。



ああ、きがむいたら、百年まつよ。そのさきになにがあるのかはわからないけど。





百年待ってて


ゼロスの台詞にある百年待っててから、お題ページにとびます。
クラトスルート見たことないので、適当ですみません。