いつだってロイドの訪問は突然だった。

世界再生の旅が終わって、今頃はロイドと悠々自適なエクスフィア回収旅行のはずだったのだが、世の中はそんなに甘くない。

なんとなく嫌な予感はしていたのだが、いや予感ほどよくあたる。まあなんだ、いわゆる山積み事後処理ってやつを片付けるように、国王から頼まれちゃったわけだ。

本当ならば今すぐにでもロイドと肩を並べて旅をしたい。

だけど、夜逃げ同然で抜け出して、何かあるごとに追われて身を隠すのも面倒なので、ロイドに俺のほうがひと段落つくまで待ってもらって、

毎日精一杯の労働をメルトキオで行っているわけだ。

で、ロイドもその間の時間を無駄にするわけじゃなくて、イセリアや近隣の村や街の復興作業を手伝っているらしい。

なんだかんだで、お互い忙しい身であるわけだが、暇を見つけてはロイドが遊びに来たり、仕事の邪魔をしに来たりしてくれるのだ。

最近ではそれが俺の数少ない楽しみになってきている。

今日も今日とてロイドくんは正面玄関から元気よく登場して、メイドが運んできたケーキを美味しそうに食べながら、アイスティーで喉を潤している。

いつも来客用に使う紅茶よりもいいものをだしているんだけど、ロイドがそんな違いに気づくわけがない。

それは旅の途中や旅が終わった後にどんなに必死にアプローチをかけても、俺様の好意に気づくことなく、むしろ無二の親友なんていう、

嬉しいんだか悲しいんだか分からないポジショニングをしてくれたロイドにはぴったりだった。

もちろんのこと、あのロイドくんに無二の親友なんて言われて嬉しくないわけがないんだけど、俺がロイドに一方的なベクトルでいだいている感情は

友情なんていう爽やかなものじゃなくて、もっとドロドロした際限のないものなのだと思う。友情とはとても近くて、でもすごく遠い。まるでねじれの位置にあるかのような想い。

だから、今回も適度にアプローチをかけたりしながら、お互いの近況と旅の計画を話したりしていた。会話がどれだけ弾んでいても、時間はいつも通り過ぎるわけで、

いつの間にか部屋の窓から見える空には朱が差していた。こうなればどちらからともなくお開きの合図を告げるか、泊まりの許可を取ったりする。

が、今日はここからの展開が一味違った。

ロイドはミルクと砂糖の入ったアイスティーを勢いよく飲みほすと、俺の目を見て満面の笑みを浮かべた。

「来月に結婚するんだ」

聞きなれた元気な声は、でもまったく予想もしていなかった聞きなれない言葉を形作っていた。

「誰が?」

「誰がって、もちろん俺が」

俺は手に持っていたグラスを取り落とさないようにすることに必死で、反射的に言葉を発することはできなかった。

ポーカフェイスを気取って表面上は冷静さを装っていたけど、内心は汗びっしょりの言葉にならない感情で一杯だ。

ケッコン、けっこん、結婚?

いやまさか。それはない。じゃあ血痕。いやそれもないだろ。ロイドくんが血痕になるだなんて、まったくもって意味不明だ。

結婚するとか言い出したとしても理解したくはないけど…。

「少し、トイレにいってくる」

ゆうに三分ほど機能停止をした後、何とか発した言葉は静寂に馴染むことなく、俺の心境を表すかのように室内の空気を上滑りしていった。