ぎしぎしと軋みをたてるベッドに腰掛けたゼロスは、そんなに無邪気に名前を呼ばないでくれと、叫び出したくなる気持ちを抑えて、
自分のすぐ後ろに寝転がっているロイドをみた。静かな室内にはゼロスとロイドの二人しかいない。
いままでは男女で分かれ大部屋に突っ込まれるのが普通だったが、最近では金銭的に余裕のできたため今日のように二人部屋を取ることもあった。
「ゼロス、聞いてるのか」
ごろんと寝返りを打って仰向けになったロイドは、返事をしないゼロスに不満そうな声をあげる。
これ以上ご機嫌を損ねられる前に返事をすると、ロイドは仰向けの体勢から上半身を起こしてもう一度名前を呼んだ。
「なんなの、さっきから」
普段の真っ赤な上着を脱ぎ、黒のタンクトップと部屋に常備してあった麻の半ズボンに着替えたロイドは、天井に向かって大きく伸びをする。
そこには戦闘で見せるような鋭利な表情の面影もない。
「いや、ゼロスは本当に残念だなと思って」
聞きようによらなくても失礼としか思えないロイドの発言に、ゼロスは頭をかかえてため息をついた。
怒る気は起きないが、自分にもわかるように説明して欲しい。
「あのなハニー、人に向かって残念とか言っちゃうハニーの方が残念だよ。わかるか?」
「あー、別にゼロスという存在が残念な訳じゃなくてだな」
ロイドの精一杯のフォローのはずが、まったくフォローになっていない。
むしろ更に酷いことを言われている気がすると思う自分を押し殺して、ロイドの次の言葉を待った。
「黙ってればすごく綺麗なのに残念だなと思って。でも、綺麗なだけじゃゼロスじゃないし、しゃべってるゼロスも面白いからいいんだけど。
あれ? てことは、残念じゃないのか」
ロイドは始点と終点が違う自分の言葉に首を傾げ、深いため息をついているゼロスを見た。
言葉少なげに、感情を潜めたゼロスは本当に人形みたいに整った顔立ちをしていて、同じ男であるロイドでも美しいと思えた。
でもそれは、氷のようにひんやりとしていて、ある種の拒絶のようなものを感じさせる。見入られるのに物足りない。
ロイドは足りないものを補うかのように、ゼロスの頬に触れた。
「ロイド」
普段露出が少ないせいなのか、しなやかにのびるロイドの手足は、彼の気性に反して色白だ。でも、不健康さを感じさせるものではなく、健康的な印象を受ける。
ゼロスは躊躇いもなく触れてくるロイドの手を好きなようにさせていると、自分の中で不埒な想いがわき上がってくるのを感じた。
健康的な肌は官能的で、いつも隠された部分のアンバランスさと、ロイドの幼さがゼロスを勘違いさせる。
ロイドの無邪気さとは不釣り合いな、くだらない妄想でしかない感情を打ち捨てるように首を振った。
「ゼロス」
「なんだよ」
名前を呼ばないでくれ。
ゼロスは声には出さずに叫びをあげる。ゼロスがロイドに向ける感情と、ロイドがゼロスに向ける感情は、少しだけ似たものをもちながら、違う場所へと帰結していく。
その少し似た部分がこうやって顔を出し、知らず知らずのうちにゼロスを揺さぶった。
「やっぱり残念じゃない。ゼロスはゼロスのままが一番だよな!」
「ハニー、俺様置いてきぼりなんですけど」
知らない間にロイドの中で完結した議論に、その課程を知らないゼロスは疲れたように肩を落とす。
ロイドは一人で満足したらしく、笑いながらベッドの上に寝転がった。
作成 09・1・31
掲載 09・3・7