二人で旅をするようになって何か変わったかといえば、何も変わってない。つも通りの平常運転で、少々旅の仲間が減ったかなというくらいだ。
でも、世界はかわった。それはもういろんな意味で。地形も変わったし、ありかたも、システムも、統合された後に全てのかたちがかわっていった。
真の意味での世界再生をするためには、この選択肢しかなかったわけだ。けど、実際のところ本当にこれが正しい道だったのかなんて、
何十年何百年もの時を経ないと分からないことだろう。変換期のいまは良い面も悪い面も掬い上げれないほどに溢れていて、
世界が変わるという未曾有の大事態に自分をカスタマイズしながら生きていくので精一杯だ。

心地いい春の風が、手元の地図を揺らした。
世界地図と呼ぶにはあまりにもお粗末なもので、まだ地形調査が完了していないため、ところどころ歯抜けなことを誤魔化すかのようにあやふやに描かれている。
たぶん完璧なものが出来上がれば、仲間の誰かが送ってくれるはずだ。
「次の目的地決まったか」
「うーん、ロイドくんのリクエストは?」
今日の野宿のための焚き木集めを終えたらしいロイドが、両手いっぱいに焚き木を抱えながら覗き込んできた。
「リクエストなんていっても、なにか情報があるわけでもないしな」
「じゃあ、最寄の街で情報集めをするのが最良ってとこですかね」
「おう、それがいい」
地図上で次の目的地のあたりをつけて、唯一の旅の指針となる頼りない地図を荷物の中へとしまい込む。
一度は巡ったことのある街ばかりだが、そこへ至るまでの道のりがかわっているせいもあって、頼りないといえども頼らざるを得ないのだ。
一足先に野宿の準備を始めていたロイドが今日の寝床になる予定の場所に火を焚きだした。
ちなみに料理は交代制で、今日はロイドが当番の日だ。こういった光景は少し前まで毎日のように繰り返されていたことなのに、
世界再生の旅が一段楽してエクスフィア回収の旅に出るまでほんの少しの期間を置いただけで、すごく懐かしいもののように感じられた。
「晩飯なにがいい?」
名前を呼ばれて振り返ると、夕日をバックに着々と料理の準備を進めていたロイドが、レシピ片手に首をひねっていた。
旅の間で無駄に培った料理能力はお互いに健在で、レシピなんてなくても大概のものは作ることが出来るから、なにを作ろうか迷っているだけだろう。
「ハニーがつくるならなんでもいい」
俺のある種投げやりな返事を聞いたロイドは、それは困ると言いながら手にしていたレシピを投げ渡してきた。
「さあ、どれでも好きなのを選べよ」
渡されたのは旅の間も使っていた見慣れたレシピで、誤って俺様が破ってしまいばれないように補修したものまで変わらずにはさんである。
ペラペラと捲っていっても、今日はこれとして食べたいと感じるものはなかった。
「じゃあメロン。メロン食べたい」
「メロンなんてどうやって作るんだよ。あーもう、今日は肉でいいか」
「今日はじゃなくて、今日もだろ」
正直にいま食べたいと思えるものを言ってみただけなのに、ジョークが通じないぜハニー。
だいたい昨日も一昨日も、三食のうちどれかは肉だった気がする。このままいくと肉食動物になってしまいそうだ。
「悪いか。メロンは次の街に着いたときにでも買えばいいだろ」
次の街といってもたどりつくまでにはもう少しかかりそうだ。
あとどれくらいかかりそうか脳内で計算してみて、ふとこの旅はまだまだ続くのかと当たり前のことに気が付いた。
今日も明日も明後日も、いつ終わるとも知れない旅の目的を達成するまでは、こうやってロイドと旅する日常が続くのかと思うと、
胸がざわざわするような叫びだしたくなるような、言葉に出来ない感情に支配されてしまう。
それが堪らなくて、目の前にあったロイドの体を抱き寄せた。
「おい、どうしたんだよ。そんなにメロン食べたかったのか?」
「そーなの、メロンが食べたくて仕方ないんです」
そんな的外れなところも愛おしくて堪らないなんて、恋は盲目って言うのも嘘じゃないんだなと思いながら、ロイドを抱きしめていた腕にぎゅっと力をこめた。






08・12・26