トリエットよりは涼しいけれど、メルトキオよりは暑い。ちなみに外は快晴で、リゾートアルタミラには燦々とした日の光が降り注いでいる。

空調のきいている室内にいても、窓の外に見える、焼け付くような太陽のせいで体感温度は高めだ。

どこかベタつく体を洗い流し、さっぱりとして風呂から出てくると、風呂に入る前と変わらない体勢でベッドに転がっているロイドが見えた。

いつもは真っ赤な上着を着込んでいるロイドだが、俺と同じように暑いと感じているのか、上半身は黒のタンクトップ一枚になっている。

普段、上から下まで露出の少ない服に身を包んでいるせいで真っ白な肌は、太陽の下を走り回る健康的なロイドのイメージとは不釣合いなくらいだ。

「コレットちゃんとがきんちょが誘いにきたみたいだけど、ロイドくんは海行かなくていいのか?」

まだ滴がたれる髪を肩にかけたタオルで拭って、ロイドの隣のベッドに腰掛けると、連動したようにロイドがベッドから上半身を起こして大きく伸びをする。

昨日からまったくベッドメーキングされていないのでシーツは皺だらけだ。そんな皺だらけの枕元には、嫌というほど見慣れたテセアラとシルヴァラントの地図が広げてある。

「うーん、今日はいい。おまえこそ、遊びに行かなくていいのか?いつもは張り切って海のほうに行くじゃないか」

「最近は強行軍が続いたしねー。それにロイドくんは部屋にいるんだろ」

「そのつもり」

「じゃーやっぱり俺様もお部屋でおとなしくしてますよ」

ロイドは、珍しいこともあるもんだななんていいながら、もう一度ベッドにうつ伏せに寝転がり、枕元の地図とにらめっこを始めた。

「そんなことより、ハニーはなにやってるの」

自分のベッドから腰を上げてロイドのベッドに座りなおすと、二人分の重さにスプリングが軋みを上げた。そのまま上半身だけロイドの背に覆いかぶさり、

枕元に広げられている地図を覗き込む。

「ゼロス重い!あと、ハニーって呼ぶな」

「照れるな、照れるな」

「いや照れてねぇよ、マジで重いって」

重い重いと騒ぐロイドが面白くて、あと少しだけ力を入れてのしかかった。あんまりふざけすぎて引き際を読み間違えると、怒ったロイドくんに殴られるので、

今回はここらで勘弁しておくことにしよう。ロイドの上から起き上がり解放してやると、わざとらしいため息が聞こえてきた。

こういう子供っぽいところがすごくかわいいと思うのだが、そんなこと言ったら確実に殴られる気がする。

「で、ロイドはなにやってるんだよ」

「答える前に邪魔したのはお前だろ」

「悪かったってー」

「もーいい」

うつ伏せのまま器用に呆れたように肩を落とすと、枕に顔をうずめてしまう。もしかしなくても、やりすぎてしまっただろうか。

「ハニー、もしかして怒った?」

返事はない。そっと肩を揺らしてみるも、うんともすんとも言わないで、枕に顔をうずめたままだ。

「ロイドくんごめんってばー。ごーめーんーなーさーいー」

もう一度ロイドの肩をつかんで揺らしながら謝るが、反応がない。これは本格的にやばいかも。

「ごめん、ごめんね、ごめんなさい」

俺が謝り倒していると、今までつかんでいた肩がプルプルと小刻みに震えだし、枕元から押し殺したような声が聞こえてくる。

もしかしてと思い、力ずくで顔を上げさせると、もう耐えられないといった表情で必死に笑いを噛み殺していたロイドと目があった。

それも既に決壊寸前。秒読みすることもなく、底抜けに明るいロイドの笑い声が室内に響き渡る。

「ロイド、おまえ騙したな!」

「くっ、はっはは、ゼロ、スが、あんまりにも必死に謝るもんだから、くっ、おかしくて」

ヒィヒィいいながら腹を抱えて笑っているロイドは、苦しそうにベッドの上をゴロゴロと転がっている。俺は真剣に謝っていたというのに、この扱いはなんだ。

悔しくて、ロイドのツンツンした頭をぽかりと殴ってやったけれど、当の本人はさらに笑い声を大きくしただけだった。

「もーいい、ロイドくんなんかしんないからな」

「怒るなよゼロス、悪かったって」

今度は逆に、起き上がったロイドが俺の背に抱きついてくる。笑いすぎて苦しいのか、のしかかってくるロイドの呼吸は荒い。

普段ロイドくんが抱きついてきてくれることなんてないので、この時点で怒りなんていうものは消え去ろうとしていた。我ながら薄情なものだ。

「怒ってない」

「ほんとかよ」

「ほんとーです。で、今度こそハニーはなにやってたの?」

俺の首に回されたロイドの手を握りこんで問いかけると、返事が帰ってくる前にロイドに引っ張られて二人して背中からベッドにダイブした。

「もうすぐさ、世界が統合されるだろ」

「上手くいけばな」

「上手くいくに決まってる。でさ、そうなったら、どんなふうになるんだろうって思って地図見ながら考えてたんだ」

倒れこんだ反動で離れそうだった手のひらを引き寄せられて、強く握りこまれる。遠慮知らずの馬鹿力に痛みを覚えたけれど、

それよりもなによりも痛みの向こうにロイドの力強さみたいなものを感じて、安心している自分がいた。

「で、ロイドくんの予想ではどうなるわけ」

「駄目。まったく想像もつかなかった」

枕元に広げっぱなしになっていたシルヴァラントの地図を手に取ったので、俺はその隣においてあったテセアラの地図を目で追っていく。

もちろんそこには、今いるアルタミラの名もあるし、俺の故郷であるメルトキオの名もある。ロイドも俺と同じように、イセリアやら自分の家だとかを見ているのかもしれない。

「シルヴァラント以外にも世界があるっていうのだけで、予想外だったのにさ」

「俺様もテセアラ以外に世界があるなんて、この目で見なきゃにわかには信じられないことだったな」

「だろ。なのに、そのうえ二つの世界が一緒になるなんてまったく想像もできないよなー」

「人生なにが起こるかわかんないねぇ」

「本当だ。でもさ、二つの世界が一緒になれば、いつだってしいなにもプレセアにもリーガルにも、もちろんゼロスにだって会えるようになるんだぜ!それってすごいことだよな!!」

「そーだねぇ。まあ、世界が二つでも一つでも、もしもなくなったとしても、俺様はロイドくんと一緒がいいや」

いまだロイドの手元にあったシルヴァラントの地図を取り上げて、テセアラのものと一緒にサイドボードの上に重ね合わせ、仰向けに寝ていたロイドの上にのしかかった。

さっそく俺の下から逃げ出そうと抵抗するロイドだったが、はむように唇を重ね合わせると、最後に一発ぽかりと俺の頭をたたいておとなしく身を任せてくれる。

当然のようにまったく手入れさせていなくて荒れた唇は、それでも柔らかさを持ち合わせていて、熱に浮かされたように熱かった。

「ゼロス」

「んー?」

至近距離で鳶色の瞳が俺を捉える。それに答えるように、微かに濡れた唇に舌を這わせた。

「俺も、お前と一緒がいいよ」

「うん」

ロイドと一緒ならばテセアラだろうとシルヴァラントだろうとデリス・カーラーンだろうと世界の果てだろうとも、もうどこでもいいんだ。

お前と一緒にいられるのならば、たぶん俺はどこでだって今までにない仕合せをつかめるだろう、そう思った。





ラブがないので仲良くさせてみようと思い、挫折。ラブって難しいですね。
時期がいまいちわかりません、空がまだ晴れていたころのはずです。

07・6・1