黒子と呼ばれる。
振り向くと、風に深紅色の髪が揺れていた。
毛先に行くほどに濃い黒へと姿を変えるそれは、情熱と強い意志を持ち合わせた彼らしい色だった。
「おい」
「聞こえています」
焦れたように、肩を掴まれる。細められた深紅色からは、声音ほどには不機嫌というわけではないのだろうと分かった。
痛いですと注意してから、あまり力を入れないように気にしだしたのは彼なりの不器用な優しさなのだろう。
「練習始まるぞ」
休憩の時間は終わりだ。少し楽になった体を引きずりながら火神君の隣に並ぶ。
ボクの方を伺うように向けられた視線。
「倒れません」
「心配してねぇよ」
慌てたような否定。素直ではない。目は口ほどに物をいうとい典型なんだから、そんなに凝視されればわかるというものだ。
でも、そういった類のことを察するくらいには時間をともにしたのかと思うと、距離の概念などない時間の中で随分と遠くまで歩いてきたようにすら感じた。
「なんだよ、黙り込んで」
「いえ、遠くまできたなあと」
理解できないと、顔に書いてある。なのに、追求してこない。踏み込むべきではないと感じたらただ黙って待っていてくれる。
雑でガサツなくせに、こういうところばかり聡いのも、優しさが分かりにくいところも嫌いではなかった。
13・02・26